今朝夢に出てきた再従姉妹の黒髪

再従姉妹と結婚しても近親婚とは言いづらい距離なんだよね

濃いめのレモンサワー

 私が最後に米を食べたのは、中学校の修学旅行の夕食だった。それ以来パン派として生きてきた私は、バイト中の何気ない会話で思わず不機嫌になってしまっていた。

 

 「暁河原(あかつきがわら)さんはふりかけ派っすか?それとも何もかけない派?」

 「あっ、えっ……えっと、なにもかけないかなぁ…ハハ…笑」

 ちょっとイラッとしたのを取り繕う笑顔が、相手に伝わっていないことがもどかしかった。

 他人の顔色を伺って、他人の評価を気にするようになってからこっち、すっかり板についたこの作り笑いも、マスクをすることが当たり前になった今ではあまり効果は発揮せず、むしろ自身に後味の悪いものを残すだけのものとなっていた。

 さすがに悪いと思ったので、

 「辰山郡(たつやまごおり)くんは?」

と聞き返しておいた。そしてその直後に明日見に行く映画のことを考えていた。

 

 

 「おつかれさまでしたー」

 私と辰山郡が一緒にあがると、私は一目散に帰りたかったのに隣の男が話しかけてきやがって、

 「暁河原さんはちりめんバトルの映画見に行くの?」

 「絶対見に行く♪ 私凧崎くん推しだから♡」

 「あのさ、もしよかったらなんだけど───」

 「あ、ごめん私早く帰らなきゃ。じゃあね〜辰山郡くん♪」

 私はバイト先の店を出て、家とは反対方向に早歩きで向かいながら独り言を吐く。

 「あいつなんなの、ほんと、調子に乗りやがって。ちょっとやさしくしたらつけ上がって映画にまで誘ってきやがって。確かにちりめんバトルは面白くて好きだよ?TVシリーズは2期までやってその後待望の映画化、初週映画ランキングでは2位とかなりの好打点を打ち上げたし、実際それは明日見に行くし。でも、お前と、なんか、行かねえよ!」

 そういって落ちていた空き缶を蹴り上げたら、おじさんの頭に当たっちゃった。あっやべ。

 ───と思ったらなんだ。かたつむりさんじゃん。

 今日はバイト終わりすぐにかたつむりさんと会う約束があった。本名?知らない。

 「ごめーんかたつむりさんTT 痛かった?でもかたつむりさんやさしいから許してくれるよね?♡」

 「いやあ全然構わないよ、なみちゃん。じゃあ早速、行こっか♡」

 「もう♡がっつかないの、恥ずかしいなあ笑笑」

 吐き気のする加齢臭を撒き散らしながら、その汚い腕で私の肩を抱きながら、2人でその建物に入っていく。

 

───────────────────────

 

 目が覚めた時には既に朝10時を過ぎていた。

 昨日かたつむりさんに貰ったお小遣いを、これまた昨日かたつむりさんに貰ったバッグに詰め込んでから身支度を整えた頃には12時が近くなっていたので。さすがに待ち合わせ相手に連絡を入れておくか。

 『ごめ〜ん😭 ちょっと遅れるね泣』

 私はタクシーに連絡をして、映画館に向かった。

 

───────────────────────

 

 「いやあ。ちりめんバトル面白かったね。みさきちゃんは凧崎くん推しだったよね?いやあかっこよかったね、僕でもそう思ったよ」

 映画の後にパスタを食べている時、目の前のおじさん(えーっと名前は確か……………………鞍試(くらためし)さんだったかな?娘さんと同じクラスだったはずだけど名前とか覚えてないし)は、何とか私の機嫌を取ろうと会話してくるけど、もうこいつとは会わないって決めたし今更どうでもいいので、

 「もういい。私帰る。このあとバイトだし。」

とだけ言ってその場を後にした。少し経って振り返ると、私がひとくち手をつけただけのパスタを一心不乱に食べていた。キモ。

 

───────────────────────

 

 「突然だけど、暁河原さんは何か闇の商売してないの?w 例えば転売みたいなw 人には言えない暗黒面とか実はない?あまりにも人が良すぎてついつい疑いたくなっちゃうんだよねw」

 一瞬こいつなに言い出すの?と思って顔に出そうだったけどぐっと堪えた。バレた?バレてないよね?転売?あー焦った焦った。

 でも確かに私はパパ活やってるけどそれってそんなに悪いこと?最近ネットニュースでパパ活女子が云々とか言ってるけど別に良くない?私はお金が貰えてハッピー。おじさん(そっか、パパだっけ笑)もかわいい女の子と一緒の時間が過ごせてハッピー。これってWin-Winの関係ってやつだよね?みんなが幸せになるならそれって素晴らしいことじゃん!

 人に好かれるために見た目も話し方も目線とかも気を付けてるし、それでお金稼いだ上で、しかも普通のアルバイトまでしてるんだから私ってすごいじゃん!それの裏を探ろうとしてくるなんてこいつやっぱほんと嫌い!アニメの話は普通に興味深くて面白いけどそれ以外の全部が嫌い!変な質問でこっちの裏探ってこようとしてくるとことか!おじさんたちは全部褒めてくれるのに……

 返答に困っていると、ちょうどよくお客さんに話しかけられたのでエスケープできた。それと同時ぐらいにそいつもほかの客に話しかけられてたみたいでその話はそれ以上続かなかった。

 

 その後しばらくそいつとは喋らなかったけど、バイト上がりのタイミングが同じだったので喋らざるを得なかった。同じタイミングで辰山郡のやつがシフト入ってきたので3人で話すことに。

 「辰山郡くんはちりめんバトル見に行くの?俺まだ行ってないんだよね」

 「僕は見に行こうかまだ迷ってるんですよ。暁河原さんは?」

 「私は次の土曜日バイトがお休みなので、その日に行こうと思っています♪虹田さんはいつ行かれるとか、予定はどうですか?」

 「ッ!…俺はまだ決めてないけど……俺も明後日休みだし、明後日の土曜なら人多いけど広い方のシアターで見れるからそうしよっかな」

 旨い具合に釣れて面白くなった私はつい笑みがこぼれる。普段ならこれに勘違いして堕ちない男はいないんだけど、やっぱりマスクがね……。

 この年上の先輩である虹田に全部奢らせようとターゲットを絞った。辰山郡はまあ同い年だから話しやすいだけだしそれ以外にメリットないから一緒に映画見に行くとか(ヾノ・∀・`)ナイナイw

 「暁河原さん大学生だから学生料金だよね、いいなあ俺も学生ならなあ……」

 「私は早く大人になりたいですけどね!19歳なんて微妙な歳早く変わりたいです!」

 「微妙な歳ねぇ… それをいうなら辰山郡くんはまだ18だっt───────」

 「お疲れ様です。それでは仕事があるので」

 辰山郡はわざとらしい音を立てながら扉を閉めて売り場に出ていった。

 

 お店を出ると、かたつむりさん頭のような輝きを放つ、とてもとても綺麗な満月が浮かんでいて思わず

 「月がきれいですね」

 なんて言ってしまった。これは有名な作家の人が昔言ったなんか有名なセリフで、なんか思わせぶりな意味になっちゃうやつだった気がする。やばいこいつ無駄に歳食っててウザいから金蔓以外の目的なかったのに変な意味になっちゃうじゃん。私のバカ!

 「月かあ…ほんとだね…」

みたいなよくわからない返事だった。辰山郡でももう少しまともな返事するのに。たぶんあいつなら

 「暁河原さんと一緒に見るからだよ」

 とかだと思うよ。うわやっぱキモいな。

 

 

───────────────────────

───────────────────────

 

♢♢

 私が最初に””大人のドリンク””を飲んだのは14歳の時だった。みんなが観光地を巡っている中、私は現地の不良グループに連れられ、気付けば怪しげなバーにいた。制服で観光地を歩いていたら修学旅行だとひと目でわかる。そしてその男達は、””そういうこと””をしている常習犯だったらしい。

 最初に運ばれてきたのは怪しげな飲み物。中身は””大人のドリンク””ということだった。味はよくわからなかった。

 私は別に特に何も感じなかった。一緒に連れてこられた友達はずっと泣いていたけど、私は不思議と笑顔で男達と話していた。

 腹は減っていないかと尋ねられたのでチャーハンが食べたいと言った。そのチャーハンがあまりにも不味かったので、まだ当時長かった髪を振り乱して言った。

 「私たち、帰ります。」

 

 

 普段遊んでるパパたち以外とは、できるだけ会わわないようにしている。高校生の時はそりゃいろんな人と会って人脈広げようとか思ったけど、知ってる人の方がリスク少ないし何度も会ってればそれだけこっちがめんどくさくなくて楽だから。だから今日みたいに、おじさん達以外とこんな風に会うのは本当に久しぶりだった。普段とは違って、今日は結構抑えめな服を着てきた。とりあえず2回目の映画だから寝ないように頑張らないといけないけど、とりあえず映画見るだけだからデートっぽくならないようにね… 別にあいつとはホテル行きたくないし。

 なんてことを言っていると、向こうから走って大声を出してる奴がいた。

 「ごめんちょっと遅れた!待った?」

 「いいえ!全然!今来たとこです!」

  恥ずかしいからやめてほしいなあ……ほんと。

 だいたい女に待たせるなんてどうかしてない?おじさんたちなら30分前には絶対来てるのに!!もしかしてゆとり世代の弊害?こいつ確かギリギリゆとり世代とか言ってたから………えっと私より6つ上だったかな?小学校も被らないじゃん笑笑

 「集合時間10分過ぎか、映画まであと5分だから行こっか」

 「そうですね、行きましょう♪」

 

 いちいちこんなやつの言動に腹を立てていてはキリがないし、そんなことをしていては一日持たない。というかもう既に帰りたくなってる。帰りにマンガ買って帰ろ。

 ともかく映画が始まった。こないだも見たけどやっぱ普通に面白いなこの映画。前回は隣のおじさんが手握ってきて本当に嫌だったのでそこの記憶がすっぽり抜けていた。この先輩はそんなことはしなかったので今回はちゃんと映画を見れた。凧崎くんやっぱりかわいいな。

 

 ───────────────────────

 こいつ本当に有り得ない。映画の料金を払わないしその後の食事代も出しやしない。私から言うのは違うからずっと待ってたのに「会計別々でいいよね?」とか言って先にしちゃったよ。なんなのこいつ?存在意義なさすぎなんですけど。ここでもう私は完全に怒ってしまった。

 「もういいです。きょうはありがとうございました。さようなら」

 そう言って早歩きでその場を去ろうとしたその瞬間だった。

 「ところで暁河原さんは、水素結合って知ってる?プロトン化した水素原子が、非共有電子対に引っ張られて酸素や窒素などと作る弱い結合のことだよ。ところでそろそろ眠くなってきた頃じゃないかな?さっき食事の時に───────────」

 急に男は口パクをし出したのでおかしいなと思ったら──────────────────

 

───────────────────────

 

 ──────ん?なんか聞こえる?

──────この曲は、プラチナカウンターの『YES MY 道路』だ。ちりめんバトルと同じ監督の初監督作品『僕の中の彼女はまだ僕に出会ってさえいない。』のEDで、オタクならみんな知ってる!という感じのやつだ。

 ──────そうか、ここカラオケか。

 ここでようやく私は体を起こした。私の目の前のこいつは、私が起きたことにも気付かずにずっと歌い続けている。あ、もうすぐ間奏だ。

 「おっ、起きたんだね暁河原さん。フリータイムで入っといたよ。」

 「…」

 「どんどん好きな曲入れてね?カラオケ代””は””僕が全部出すから。とはいえ僕が歌う曲7曲入れてるからその後ね」

 なんなんですか?と問おうとしたらちょうど間奏が終わって歌い始めた。私の声は大サビの前のBメロにかき消された。

 

 私は、よくここまで耐えたと思う。大して好きでもない男とこんなに時間を重ねて、お金をもらって楽しんでいた。でもそれは当たり前のことだと思っていたから。息を吸って吐くことのように、あるいは心臓の鼓動のようにごくごく当たり前にそれを遂行してきた。でも私は、私は。

 

 ずっとそれが嫌で嫌でたまらなかった。

 

 私は黙ったまま曲入れるやつを掴んでパパっとその辺のなんかの曲を適当に割り込みで入れた。

 そして思いっきり叫んで歌った。

 私は怒りのままに、お腹の底から叫んでいたから聞こえなかったはずなのに、この部屋にいるその男が

 「やっと月が見えたよ」

と言った気がした。

 

───────────────────────

 

 「なんかいい話風にいいますけど、虹田さん。あれ普通に犯罪ですよ?睡眠薬入れてカラオケに監禁ですからね!?」

 「まあまあそんな一週間も前の話を……。あの時は何もしなかったんだから大目に見てよ。ちゃんとカラオケ楽しかったでしょ?」

 「それはまあ……。久々に素に戻れたとは……確かに思いますけど……」

 「ずっと無理してたでしょ?たぶん暁河原さんがやってることって、俺が想像するよりも遥かに大変なことだと思うんだよ。だから少しでも楽になればってね。そしてそろそろ自分に素直になってみればいいんじゃない?」

 「何の話ですか?私はもうバレちゃってるから虹田さんには素で話しますけど、それも今みたいな二人しかいない時だけですし、ほかの人にはちゃんと媚び媚びで生きていきますよ」

 私がそういうと、マスク越しでもわかるぐらいのニヤニヤ顔でこっちを見てきたので、さすがにキモくて目線を売り場にやると、こっちを見ている辰山郡がいた。

 「気付いてるかわからないけど、暁河原さんが俺以外に対して直接名前呼んでるのって辰山郡くんだけだよ?」

 

───────────────────────

 

 結局その日は眠れなかった。だってそんなわけなかったから。

 私の記憶ではかたつむりさんの名前は呼んだ。付睫毛さんだって蔵人形さんだって、ほら名前はちゃんと知ってるし呼んだことあるもん。みんなおじさんたちだけど。いや確かにバイトの人達の名前ほかに覚えてないけど。

 でも、辰山郡だけ呼んでる?え?ほんと?

 でもただ名前呼んでるだけだよ?確かに私は人の名前なんて覚えないし顔も曖昧だし自分さえかわいければいいから周りのことなんて見えてるだけで視てないけど。

 だからって何?辰山郡蝋燭(たつやまごおりろうそく)っていう名前を覚えているだけのことでしょ?それを特別扱いみたいに言うなんて、やっぱり虹田嫌い。くたばれ。

 

 

──────────────────────────────────────────────

 

 

♢♢♢

 昔から星を見るのは好きだった。小学生の頃、遥か星の彼方には王子様がいて、ある日私を迎えに来てくれるのだと信じていた。でも、実際に来たのは王子様ではなく、おじさまだった。私が初めてパパ活をしたのは、お母さんが「サンタさんなんて本当はいないのよ」と言った次の日だった。その日はとても綺麗に星々が見られる素晴らしい夜空だった。はじめてのおじさんの名前は覚えてないけど、その人が、星についてすごく楽しそうに雄弁に語っていたから、私はもう星に興味を示さなくなった。

 

 

 「カラオケでも行かない?」

 春休みが終わって少し経ったある日、虹田さんがそう切り出した。カラオケというワードに反応して私は虹田さんを睨んだが、虹田さんは辰山郡をみていた。

 「いいですね。メンバーはどんな感じですか?」

 辰山郡は乗り気みたいだ。

 「そうだね、辰山郡くんと暁河原さん、それから洒落束(しゃれたば)さんと犬猫谷(かちくや)くんと常日頃さんぐらいは誘おうと思ってるかな」

 洒落束来んの?洒落束さんは4月から公務員勤務が決まっているバリバリキャリアウーマン女。えー嫌だな。

 「暁河原さんはどうっすか?予定とか大丈夫そうですか?」

 「私は………………」

 辰山郡に尋ねられ、高速で脳をフル回転させた。どう答えれば丸く収められて上手く断れるか。どうにかして誤魔化さなきゃ。

 「犬猫谷くんはともかく常日頃さんまで来るとシフト大丈夫かな?店から誰もいなくなっちゃうよね……」

 「大丈夫。なんとかするさ……」

 突然横から常日頃(そんな名前だったんだこの人)が現れてかっこよさげな空気を出してまた去っていった。あの人実はまだ30いってないらしい。風格あり過ぎ……

 

 「常日頃さんマジで男の中の男っス!さすが常日頃さん!」

 「囃すな囃すな虹田湖助衛門(にじたこすけえもん)。俺のハートはいつだってクライマックスなんだよ……」

 必ず語尾が……で終わるこの人は確かにかっこつけてはいるけどそんなにかっこよくない。男ってみんなこういうのが好きだよね。

 

とりあえずそのまま会話はなし崩し的に終わっちゃって、上手く断れずに終わってしまった。結局カラオケの具体的な日程が決まったのはそれから1週間ぐらい後で、実際にカラオケが開かれるのは2月になった。

 普段なら断るけど、なんか虹田のやつに言われたことが気になるし、私は私のやりたいようにやって生きてやる。それを証明するためにも、ここは引かない。

 こんなことに意固地になるなんて、なんか変な私。

 

───────────────────────

 

 〈最近会えないね……学校とか忙しいのかな?テスト期間とか?〉

 かたつむりさんからのメッセージは最近いつもこんな感じ。理由は明白で、私が最近パパ活してないからだ。

 別に何が原因とかじゃない。なんか気が乗らないだけ。だから学校とバイト以外で人と会うのは、今日のカラオケがかなり久しぶり。

 〈色々と忙しくなっちゃった…😭 また今度会おうね♡〉

 とりあえず適当に返信して、そろそろ準備しなきゃ。

 

今日はとことん復讐してやる。ターゲットは辰山郡蝋燭と、虹田さん。虹田さんには少なからず感謝してる。少し許された気になったから。でもそれとこれとは話が別。あの辰山郡蝋燭なんか全然タイプじゃないし微塵も好きと思ったことがない。あんなやつに焚き付けられたから意識するというのも馬鹿らしいけど、私は絶対に””そんなことない””って証明してやるんだから。

 

───────────────────────

 

 結局カラオケには、あの女は来なかった。えっと名前なんだっけ………………そう、洒落束。大学が忙しいらしい。

 

 「というわけで、俺と常日頃さんと辰山郡くんと暁河原さんの4人でやることになりました。聞いてるとは思うけど、洒落束さんと犬猫谷くんは学校のことで忙しくてこれなくなったそうなので、この4人で!」

 あ、そういえばもう一人いなかったんだっけ。

 

 受付をして、指定された部屋番号【205】に入った瞬間辺りで、かっこよさげな人が、

 「ちょっと電話かかってきた……。悪いけど先やっててくれ……。前ならえの先頭の奴みたいに、俺のことは気にするな……」

と言って店の外に行った。なんなのあの人。

 「常日頃さん大丈夫かな、まあいいや。とりあえず俺から入れるね。みんなじゃんじゃん入れてね。とりあえず時計回りで行く?」

 虹田さんはいつものように色々と仕切り始めてウザい。でも勝手に色々と決めてくれるのは楽だからとりあえずここは持ち上げとくか。

 「じゃあ私飲み物取ってきますね。辰山郡くん一緒に行こ♪私が虹田さんの分もとるから、辰山郡くんは……常日頃さんの分も取って!」

 今のはギリセーフだよね?常日頃さんの名前ギリギリ出た!セーフ!

 「わ、わかったっ!よし、行こうか、暁河原さん」

 部屋に独り残された虹田さんはお構い無しに楽しそうに歌っていたから、私は笑顔でドリンクを取りに行った。

 

───────────────────────

 

 どれくらい歌ったか。

 たぶん二時間ぐらい歌ったと思う。常日頃さんはまだ帰ってこない。虹田さんは途中で””大人のドリンク””を頼んで酔い潰れて寝ちゃってる。隣にいる辰山郡がチラチラこっち見ながら歌ってるのがめんどい。

 「なんだか二人でカラオケに来てるみたいだね。」

 ちょっと歌うのがめんどくさくなってきたので、辰山郡が歌い終わった直後にちょっと雑談でもしようかと切り出した。

 「ハハ、そうだね……。虹田さん寝ちゃったし、常日頃さんは帰ってこないし。なんだかドキドキしちゃうな……」

 うわ、なんか仕掛けてきてない?こいつ。チャンスとか思っちゃってんの?いるいるこういうやつ。

 でも私もなんだか変なテンションになってきちゃってたから、

 「どれぐらいドキドキしてる?」

 と言って胸あたりに手を当ててみた。こんなことするのも久しぶりだな。

 「あ、暁河原さんっ! そんなっ……///」

 何その反応。童貞過ぎて笑う笑笑

 「なに?顔紅いよ……?」

 

 「き、気の所為だと思うよ……///」

 

 「気の所為?なにが?」

 

 「あの……その…………………………………………いや。」

 

 目の前の男は、何かを決意したようにこちらの目をじっと見て、姿勢を正して仕切り直した。

 

 「あなたのことが好きだからです。このドキドキは、そのせいです。」

 こっちが笑っちゃうぐらい恥ずかしいセリフを大真面目な顔で言っちゃってて本当に面白かった。

 

 うん。面白かったんだ。

 

 私、ちっともドキドキしなかったんだ。

 

 「そっか〜、でもごめんね、私ほかに好きな人がいるんだ。」

 そう言ってその男から目を逸らした。そこには虹田さんが寝ていた。

 「そ、そ、そうなんだ……そうだよね……ハハ、ごめんね急になんか、ちょっとトイレ行ってくるね」

 急いでトイレに駆け込んで行ったその背中は、なんだか懐かしくて、初めて飲んだ””大人のドリンク””の味を思い出していた。それと同時になんとも言えない、なんとでも言えそうな感情がグルグル渦巻いていた。

 それから少し経って、私はボソッと口を開く。

 

 「なんで断っちゃったかなあ……」

 「ほんと、なんで?びっくりしたわ」

 突然の声にびっくりしてそっちを向くと、虹田さんがこちらを見ていた。え、何?もしかして────

 「いや辰山郡くんマジで頑張ったね。寝ている───いや寝ているふりだけど───とはいえ俺がいる前で告白とはね。ウブでかわいい告白じゃないかい。なんで断ったの?胸に手を当てたりしていい雰囲気だったじゃないの」

 うわ……こいつ寝たふりした全部見てやがったのか……気持ち悪いな…………。

 「ほんっと最悪!何なの!?私の何が分かるって言うの!?」

 叫んでみてようやく分かった。私は怒っていたのだ。なんでか分からないけど、怒っていたんだ。

 

 ──────誰に?何に?

 

 「私は私のやりたいようにやる!!あんたなんて嫌い!もう本当に嫌!」

 「そんなに?」

 「当たり前!!こんな思いまでしてるのに、嫌いじゃないなわけないでしょ!?」

 「じゃあ……」

 本当に大っ嫌いでたまらないその虹田は、一口グラスに注がれているドリンクを飲んでから続けた。

 「じゃあ、なんで出ていかないの?」

 「……え?」

 え?何を言ってるの?

 「嫌なら出ていけばいいじゃん。今までそうしてきたんじゃない?優しいおじさんばっかりじゃなかったでしょ?」

 「だから分かったような口をきかないで!私がしたいようにしてるだけ!」

 「じゃあこの部屋から出たくないってことか。それはどうしてかな?」

 「ニヤニヤしないで!ムカつく!」

 

 もう虹田が何を言っていて、自分が何を返しているのかよく分からないほど頭がこんがらかっている。なんでニヤニヤしてるのこいつ!本当にムカつく!!

 

 「まあまあこれでも飲んで頭冷やしなよ。辰山郡くん帰ってくるよ?」

 「帰ってこないよ!知らないけど(ゴクッ」

 出されてそのまま飲んじゃったけどこれ””大人のドリンク””で、しかも間接……

 「あれ?これどっかで……いややっぱりあの時飲んだやつだ。」

  「未成年なのに飲んだことあるのw?悪い子だね、暁河原さんはww」

 「どうせ私は悪い子ですよ。ふーんだ」

 私は怒っていた。怒って””いた””。つまりもう、不思議と怒っていなかった。

 

 「これ、初めて飲んだ時と同じ味。これなんてやつ?」

 

 「いいね、その言い回し。なんか気に入ったよ」

 「質問に答えてよ。」

 「いいけどその前に聞いて」

 「何?」

 

 「好きだよ。付き合ってくれない?」

 

 「……いいよ」

 

 「ありがとう。これはね、濃いめのレモンサワー」

 

 

───────────────────────

 

 夜もすっかり更けていて、これからが大人の時間だっていう懐かしい温度と風が心地よかった。

 結局そろそろお開きにする?って空気になった時に常日頃さんは帰ってきた。辰山郡はその少し前に帰ってきた。トイレ長。

 

 「じゃあこの辺りでお開きにしますか。」

 こすけっちがそう言うと、それからみんな散り散りになった。辰山郡ってあんなに小さかったっけ?ってぐらい肩を落として歩いてた。悪いことしたね。

 

 そして道を右折、また右折、そしてその後右折して元の場所に戻ってきたら、ちょうどこすけっちも戻ってきたタイミングだった。

  え?誰かだって?虹田湖助衛門だからこすけっち。かわいくない?

 

 「二次会、どうする?」

 「タクシー捕まえよ。こすけっちの家でいいよね?」 

 「そうそう言わなきゃいけないことがあるんだよ」

 「何?」

 

 「俺、童貞だけど大丈夫?」

 

 私ほんと、こすけっちのこと大嫌い。

 

 

届いていた声

 身支度を済ませて家を出る頃には既に14時を回っていて、お昼時を躱せたのでそれはそれで良かったのだろう。私はそう思って財布を開いて所持金額を確認した。

 家の外で財布を開くのは不用意だろうか。ここは腐っても大都会東京だ。どんなところで誰に見られているかわからない。───いや、地元でもないのに「腐った」なんて表現をするのはダメだな。東京に生まれ東京に育ち、東京を愛し東京に愛されている人達に失礼極まりない発言だったな、撤回します。

 

 私は自分に自分でツッコミを入れる程度に精神を回復させていた。メンタルとフィジカルはどうも繋がっているらしく、着替えて化粧をしたら不思議と鼻歌を歌うほどにはなっていた。まあ絶望に中での起床は慣れていて耐性がついたとも言うけれど。

 私はとりあえず駅の方へ歩いた。東京に住んで10年ほど経つが、未だに東京という街には慣れておらず勝手が分からないものの、駅の方へ歩けば大抵のものはあり、大抵のことが出来る、それだけは分かっていた。

 先程財布とにらめっこした時に既にどこに行くかは決めていた。少しだけ余裕があったのと先程との精神落差により過剰に気分が良くなったという錯覚が、最近出来たイタリアンレストランへと足を運ばせているのである。

 それにしてもオリンピック様々である。昨年開催された東京オリンピックが与えた経済効果は絶大で、都心から少し離れたこの辺りの駅前の開発もどんどん進んでいった。

 そしてそれだけではなく、文化面でも大きな発展を遂げていた。アニメにおいてもそれは例外なく訪れ、オリンピックに合わせてスポーツ物のアニメが多数制作されて人気を博した。─────どれも私は出演していないけど。

 

 大丈夫。もうそんなことで落ち込んだりしない。私だってもう今年で26だ。家の外に出たら社会人スマイルの仮面で顔を隠す。そしてすっかり名も消えたのでマスクなどで変装しなくても街で声をかけられることは無い。干され声優バンザイである。はは。

 

 そんな自虐散歩を続けていると目的地に着いた。そしてそこで思わぬ邂逅によって、マスクをしていなかったことに後悔する羽目になる。

 「たやりそじゃーん!久しぶりー!元気だった!?」

 マスク越しでも大きくはっきり聞こえるその特徴的な声は、紛れもなく華斑巫女さん───みーさんのものだった。だがそれは有り得なかった。

 「………………あれ?桐タンポ出てましたよね?」

 「…あ、うん。………あっ、見ててくれたの?ありがとう!でもあれは録画なの。ここだけの話、あそこだけ昨日録ったやつを放送しているの!」

 

 時間的には大して見てはいなかったが、体感的には永劫の時間見たようなその顔を、こんな短時間にもう一度見るとは思っていなかったため、驚きのあまり挨拶を返さずに質問をしてしまった。だがさすがはみーさん、すぐに切り返して情報を付け足してくれる。そこまで言っていいのかはギリギリなところだと思うけれど。

 「………………とりあえず、中に入りましょうか。」

 私は昏い後ろめたさから店に入り、もはや小走りのような足取りで急いで席に座った。壁際のテーブル席だった。

 

 「最近ここよく来るんだよねー。そういえばさ、こないだたまたまイカの塩辛買ってみたら””たやりそ””のこと思い出してさー。好きだったでしょ?イカの塩辛。」

 先程言いそびれたが、「たやりそ」というのは私のあだ名である。由来は「巣南 妙耶(すな たや)」→「たやちゃん」→「たやりん」→「たやりそ」だったと思う。なんだかすごく懐かしい響きだった。声優の仕事以外では呼ばれない名前だから。

 それにしてもみーさんは本当にいい人だ。気まずそうに下を向いているしか出来ない私に代わって話を切り出してくれたし、その話題のネタもアニメ関連や最近どうしてるかなどではなく当たり障りのないそれでいて嘘だったとしても分からないような絶妙なところをついてくる。本当にこの人は非の打ち所がない。だから嫌いだ。

 「みーさん。私………………」

 しかしあえてその話題に応えずに全く別のことを切り出そうとした私にみーさんは

 「たやりそ!泣かないで、そんな顔しないで!分かってるから。私分かってるつもりだよ!?だから泣かないで。」

 なんてことを言い出す。この人は何を言っているんだろう。いくら私が普段ほとんど人と会話を交わさないからと言ってこんなことで泣いたりなんて───────していた。

 両目から煮え滾るほど熱い二本の川が流れていた。

 いや、これは綺麗なものの描写などではなく、化粧を剥がしながら下る冷徹な激流だった。

 「みーさん…………私っ………わ………ごめん…なさい。ごめんなさい…ごめんなさあああああああああああああああああああいいいいいいいい──────────」

 私は決壊した。25歳にもなって情けない。みっともない。先輩に泣きついて泣きじゃくって、おしゃれな店内の雰囲気をぶち壊す大声で泣き叫んだ。

 やれば出来るじゃん、私。しばらくボイトレすらしてなかったけど、意外と声出るじゃん。

 ただ、その後食べたスパゲッティの味は全く覚えていないし、たぶん何も感じられなかったと思う。

 

 

「本当にずびばぜん、ずびばぜん………結局パスタも奢ってもらっちゃって……」

「とりあえず顔拭いて、鼻かんで?ほら、大丈夫だからね。気にしないでね。」

  この先輩はなんでこんなに優しいのだろう?女神かな?そういえば「もやし」の正体は実はピカこたちに力を与えてくれた女神様だったっけ。

 

 結局、私は自分が泣いた理由も、みーさんが私の何を分かってくれているのかも何一つ分からなかった。ただ、この人がちゃんと私を分かってくれているんだなと言うことは伝わった。そしてこの人が口だけじゃないことを私は知っていた。

 「あのね、私思うんだ。きっとスタッフの皆さんも分かってくれてる。たやりそがしっかり十分反省してるって。」

 嘘だ。反省なんてしていなかった。私は全てを他人のせいにして殻に閉じこもっていただけだ。あんなに大声を出したのはピカこの最終回の時以来だった。

 それでも、きっとこの人は全部分かった上でこう言ってくれているんだ。私は本当に持つべきものを持っていたんだ。

 才能とかそんなものじゃない。きっとそんなものはない。どこにもない。

 私が持っていたのはかけがえのない存在ってやつだ。大切な人。ずっとこの人は──みーさんは私のことを心配してくれていたんだ。

 じゃないとこんな所でばったりあったりなんてしない。さすがに桐タンポ!の収録のことは嘘ではないだろうけど、家の方向が全然違うこんなところで、しかもイタリアンはそんなに得意じゃないみーさんがこんなところに来るはずがないんだ。でもきっとなにかの情報を掴んで私のことを探しに来てくれたんだ。

 薄っぺらい才能なんかじゃない、努力という本物の才能によって重厚に積み重なった華斑巫女というこの女性は、こんな私のためにここまでしてくれるんだ。

 だから私は決めた。恥も外聞もない。さっきレストランで全部吐き出してきたから。私はみーさんに心の内を全てさらけ出す。

 

 「みーさん。私、結婚します。いえ、私と結婚してください。今は収入も安定しないし未来もなんにもないけど、必ずもう一度夢を掴んで舞い戻ってみせます。だから、どん底の私がはい上がれたなら、その時は、私のお嫁さんになってくれませんか。」

 

 「……………………………はい。私で良ければ。」

 少し戸惑った様子だったがすぐに優しく微笑み、私の手を握ってスキップをしながら公園の方へと私を引っ張った。

 

 

 

 

                                                                                  E  N  D

届かない声

「今日、2021年1月7日はTVアニメ『廻るまわるよマジカルガール』放送開始からちょうど10周年のメモリアルということで、特別ゲストの方をお呼びしております!人気声優の華斑巫女(はなむらみこ)さん、江戸紫玖珠代(えどむらさきくすよ)さんの御二方です!どうぞ!」

「声優の華斑m──────」

 

 私は吐き気がして、瞬間テレビを消した。

 まだ痛む頭を擡げながら時計を見ると、既に正午を回っていたのでとりあえずテレビをつけると、そこには酷く見覚えのある、もう二度と見たくもない顔があった。しかも2つだ。

 電化製品の電源は着けた瞬間に消すのが消費電力の一番の無駄なので普段は絶対にしないが、半分寝ている脳味噌に代わって反射神経が英断を降したのだ。

 

 私はまだぼんやりとした頭がえも言われぬ憤慨と嫉妬の混沌で次第にスッキリと覚めていくのを感じた。

  そしてまたあの人達から目を逸らした事実に、自己嫌悪の波がおそいかかる。

映った番組は平日のお昼にやっている報道バラエティで、お堅いニュースから流行のファッション、エンターテインメントに至るまで様々なジャンルをピックアップして紹介する人気番組『桐タンポ!』だった。

 別に秋田県のローカル番組ということではないが、メインキャスターが桐 甫(きり はじめ)という名前であだ名が「きりたん」だからだそうだ。

 最近は近年のとある大きな当たり作品のおかげで、声優がテレビに出ることが以前より格段に増えたし、なんなら今みたいに「〜周年」とかいう理由で出ていたりする時代だ。

 

 「私だって………」

 

 気付けば外は雨が降っているようだった。 とりあえず私はベッドから起きあがり、カーテンを開けて顔を洗った。

 洗面台の鏡に映る自分と目が合った。誰だよこんなひどい顔の女。

 「これで性格も悪いなんて、こんなやつ干されて当然だよ。」

 ここで私は決心が着いたようで、ようやく過去を振り返り始めた。

 

───私は声優だった。いや、一応今もか。事務所には所属させてもらってる。

 10年前の2011年に放送されたデビュー作『ピカこ』が大ヒット。主人公の「ピカこ」を演じたことで爆発的にブレイクするきっかけとなった。そこから作品に恵まれて一気に名が売れ、人気声優として取り上げられるようになった。毎日収録のはしごなんてのは当たり前で、あっちからこっちへスタジオに移動したり、雑誌や情報サイトの取材に追われたりでひっきりなしだった。デビューから2年ほど経った頃、ラジオのお仕事も入ってきた。当時の私は器用に会話を回すことが出来た。それは昔から得意だったのでラジオもそれなりに人気があった。

 それこそテレビにもいくつか出演させてもらったこともあった。まだ10代だった私は大変もてはやされた。

毎日が楽しかった。

 でも────────────────────。

 

 

 でも。それは全て過去のことだ。そしてそれを過去にしたのは紛れもなく私だった。私の自業自得だったのだ。

 それは2017年放送のTVアニメ『俺とあいつの共鳴寄与体』の放送期間中に起こった。

 私はその通称『おれきよ』でメインヒロインの役を勝ち取った。オーディションでは、デビューからお世話になっていた先輩達や勢いづいて脂の乗った後輩達を退け、メインヒロインというたった一輪の花を掴み取ったのだ。

 嬉しかったのだろう。誇らしかったのだろう。

 あえて綺麗な言葉を選べばきっとそんな感情だったに違いない。ただ、間違ってはいないが確実に別の物だ。だから私は『おれきよ』のウェブラジオで、ゲストの先輩相手にこう口走ってしまった。

 「───ほら、私って本当に凄いじゃないですか、大したこともしてないのにずっと大人気!だから後輩達にどんどんアドバイスしてるんですよ、『もっと才能の感じられる声を出せ』って─────」

 

 有り得ないでしょう?有り得ない。でもその時の私はこれの何がおかしいのかわからないほどに天狗になっていたのだ。一度も苦労した時期を経験していないが故の傲慢、不遜だった。

 この時のラジオは私の発言の直後の先輩の絶妙な返しでギリギリネタとして成立していると判断され、カットされることなくそのまま配信された。

 しかし私の問題発言は、ラジオを聴いたファン達や業界のスタッフ達が違和感を抱くのには十分すぎる発言だったのだ。

 それから少しずつ───いや、目に見えて仕事は減っていき、去年はテレビアニメが年に4本、それも継続の仕事ばかりで、その他はソーシャルゲームの収録が3本だった。それでも私を信じてくれる音響監督さん達のおかげでまだ仕事を貰えている方だと思う。

 それでも、元々声優の仕事単価は安いので、今やバイトをしなければ生活していけないほどだ。部屋の隅々に、ボロボロになったブランド品のバッグやアクセサリーが転がっている。売れている時に狂ったように買い漁っていた””象徴””にしがみついている醜い証左だった。

 

 私は自己嫌悪から立ち直れはしないものの、冷静な判断力を取り戻せたのでもう一度テレビをつけた。

 しかし先程のピックアップコーナーは既に終わっていて、華斑さんや江戸紫さんは画面から消えていた。

 ───実は、デビュー作で共演したり、その後も声優の私にとって大きな基点となるような作品の度に不思議と2人と一緒に仕事をすることが多かった。デビュー作でピカこのパートナー「もやし」を演じたのが華斑さん──みーさん、問題のラジオのゲストが江戸紫さん──くっさんだった。

 加えて言うならば、私が人生初のオーディションに落ちて掴めなかった役、作品に2人がダブルヒロインで起用されていた。ちなみにその作品の名は『廻るまわるよマジカルガール』だ。

 

 私はもう見たくなかった。優しくて真面目で努力を怠らない2人が第一線で活躍し続けるのは当たり前で、それは全く努力することが出来ない割に周りを見下すような私にとって、暴力以外の何者でもなかったから。人気声優として輝かしい姿を見る度に、私はおぞましい吐き気に襲われて身動きが取れなくなった。すごく近い場所で彼女らを見ていた私には、見た目も麗しい彼女らの努力が本物であることは誰よりも分かっている自信があるし、人気と実力が伴っていることは誰の目にも明らかだなと思ってもいる。

 だから、私には眩しかった。そして、自分を省みた時、そこにはどす黒い””何か””しかなくて絶望しないではいられないのである。

 

<グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………

 

 けたたましい轟音はどうやら私のお腹からだった。そういえば今日起きてから何も食べていない。それどころか最後に何かを食べたのは昨日のバイトの昼休憩中だから24時間は経っている。

 私は仕方なく身体を前方に倒す歩き方で冷蔵庫の前に行き着き、扉を力なく開いた。

 しかしそこには驚くほど何も無かった。完全なるからっぽ………ではないものの、およそ昼食を採れると言えるほどの物量は存在しない。

 こんな酷い心身状態で外出しなければいけないなんて閻魔様もびっくりの地獄だよ。

 私は逆に少し元気が出てきて、まずその辺に落ちていたゴムで髪をまとめた。

 

 

 

 

青い春

燻らないで 僕の 青い春

あの雲が 形 変える前に────

 

いつもの空 いつもの街

いつもの風が付き纏って

少し遅めの 春一番

僕にとっては 木枯らし

 

太陽が見たくて 大輪の花見たくて

彼方の空の重くて堅い 扉を開いて───

 

燻らないで 僕の 青い春

あの雲も 燃えて 舞い踊る

立ち上がれ どんな 荒野でも

走り出せば その跡は 川になる

 

燻らないよ 今が 僕の春

蕾のまんまじゃ いられない

花 咲(ひら)け もう 寒くはない

辿り着いた 新天地(そこ)の名は 青い春

 

 

 

作詞  道程

作曲  覇津風 

編曲  大剣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新曲出来ました。

プロデューサーは私です。

頭(brain)の中に歌データが入っています。

そのうち上げます。

喉元過ぎれば明日忘れる

忘れたのは投稿でした。

 

まずはこちらをご覧ください。


f:id:navamacasa:20200804154611j:image

 

そういうことです。291日は超最近です。

至極真っ当に生きていればこういう価値観が自然と育って形成されていくはずなんですがね、どうなんですか、あなたは?

 

というわけで一応考えてはいたんですよリア充爆発サスペンス。

 

ですがまず恋愛というものがどういう現象なのか、恋愛当事者であるところの男とは、女とは何なのか(ここでは単純な男女間異性恋愛だけを言うものでは無いが、記号として明瞭なので挙げました)、各プレイヤーの挙動にバグはないかを調べていたのでこのようなtの増加を招いてしまったわけです。

 

そもそもとして物を為し事を書す(事為物書からきています)ために始めたのでこれはtに依存しません。

 

はい。

 

そういえばこの空白の期間に右腕を葬ったり右腕に金属をねじ込まれたり抉り取られたり右腕が治らなかったりしましたがそれが291日間というものなのですね。具体的にどれぐらい前かわかりません。1/1から今日で217日らしいです。つまりそれぐらいということですね。

 

体感ほぼ一年では?

 

 

 

↑何を血迷っているのでしょうか。右腕を逆に曲げたのは400日以上前のことです。

 

 

 

とはいえ文体が変わっています。ここまで言及することが既に、ではありますが。

 

消耗戦を得意とする私-わたくし-がさらなる消耗戦を皆さんに提供致します。

 

こういう時間の余剰分はほぼ発生することがなく、至る場所も時も存在しない可能性がある、むしろ高いとさえ言えます。

 

で、あるので、どうすれば成せるのかを考察しています。(リア充爆発サスペンスは諦めました。ほかのものを書く暇があれば書きます。たぶん作ります。)

 

周知のものにしたいという感情の発生はなく、為すことに意義を見出しているのでこれは宣伝ではなく自己に対する脅迫の一環であるとご理解ください。

そろそろ体力という体力が限界に近くなってきたので(充電もですが)この辺りでケツを拭かせていただきます。

今回は便意も尿意もなく敗北宣言をすることがなかったようです。しかし別の社会的要因によって私-わたくし-は瀕死状態に陥っています。

 

───────ここで思い出しましたが、以前人間関係(家系図)が複雑な話を書きました。書いたというか箇条書きに毛が生えたようなものですが。そういうようなものもやっていこうとは思ってるんですよね。これも脅迫です。切迫であり背水の陣施行現場です。

 

今回はこの辺りで。世界に安寧を齎すために社会に血の雨が満たされんことを。

リア充爆発サスペンス

絶対運命黙示録
絶対運命黙示録
出生登録・洗礼名簿・死亡登録
絶対運命黙示録
絶対運命黙示録
わたしの誕生・絶対誕生・黙示録

闇の砂漠に燦場・宇葉
金のメッキの桃源郷
昼と夜とが逆回り
時のメッキの失楽園

ソドムの闇
光の闇
彼方の闇
果てなき闇
絶対運命黙示録
絶対運命黙示録・黙示録

もくし しくも
しもく くもし
もしく しくも

もくし しくも
しもく くもし
もしく しくも

 

 

そろそろ乾季に入るので悪魔に備えたいですね。氷の骨を狩るものよ。

 

この辺りが近況報告です。最近全くこれを動かしていなかったのでついに公式からも見放されました。

 

というのは置いておいて。

 

この記事はあくまで導入提示《イントロダクション》に過ぎず、悪魔の前置きを三叉の鉾で滅多刺しにするということである。

 

 

 

 

要するにここから数話ぐらい小説が続きます。たぶん。

 

いつ終わっていつ始まるか、どこまで続くか知りませんがそれはお互い様ですね。

 

何も考えずに適当に書くので矛盾はどこ吹く風でやっていきます。

まあ本来そんなの嫌ですがそれよりも書きたいけど書けないという怒りをぶつけるものなので。

 

 

憤りならつゆ知らず。

 

 

それでは近いうちに。

主題:「再従兄妹同士は近親婚じゃないもんっ!お従堂姉ちゃんも応援してくれてるもんっ!」

血縁関係やその続柄というのは非常に厄介である。

 

非常に暗黒めいた家系図を所有している人物もこの外面世界には存在しているだろう。

 

その中でひとつ存在しない存在を例にとって話を進める。

これはあくまでも存在しない存在の話である。そこに存在する一族名称存在や生命存在などは全て架空の存在であるとする。

 

 

それではここで呼称するための仮の名称を発表する。

 

存在するのは16歳男性、辛味澤 甘党(からみざわ あまとう)。

彼には妹がいる。その名を辛味澤 女王天童(からみざわ クインテッド)という。

彼は4存在家族である。

父の名は辛味澤 小麦畑(からみざわ こむぎばたけ)、母の名は辛味澤 政(からみざわ まつり)という。

ちなみに母の旧姓は金平糖山林(こんぺいとうやまばやし)である。

 

ここで補足しておくと、金平糖山林家は地元の大地主であるが、没落して今ではか細く暮らしている所謂恐慌貧困の層である。

 

馴れ初めはこれぐらいにして家族構成の説明を続ける。

 

辛味澤 小麦畑の父の名は辛味澤 寿盃(からみざわ いわい)であり、母の名は辛味澤 遡観(からみざわ さかみ)である。

寿盃と遡観の間には3存在の子が存在し、小麦畑はその中の長兄で長男である。

下には妹と弟がおり、それぞれ辛味澤 慮悠戸(からみざわ りょうこ)、辛味澤 観音衛門次郎助(からみざわ かんのんえもんじろうのすけ)という。

寿盃と金字塔山 堅耶麻里(きんじとうざん かたやまり)の間の子が遡観である。

 

寿盃はほかに2人の女性存在と子を儲けている。

一人は地獄河原 鹿牛馬(じごくがわら こうめ)であり、その間には2人の存在が存在する。

姉の地獄河原 顔三度迄(じごくがわら ほとけ)と妹の地獄河原 三千世界(じごくがわら さんぜんせかい)である。

 

そしてもう一人は地獄河原 河川江(じごくがわら かわこ)である。これは地獄河原 鹿牛馬の母であり、鹿牛馬や顔三度迄や三千世界のもつ地獄河原の姓はこの河川江のものである。

ただし地獄河原の姓は河原江の本来生まれ持ったものではない。旧姓は大源流峠(だいげんりゅうとうげ)である。

 

大源流峠家は元来百姓の出で、貧しい暮らしをしていた河原江に一目惚れした当時の自動車メーカーの社長であった地獄河原 金棒剛健(かなたけし)が結婚を申し込んで嫁入りさせた。

 

ところで、金字塔山 堅耶麻里は辛味澤 小麦畑の姉である。

故に当然堅耶麻里の旧姓は辛味澤である。堅耶麻里は金字塔山家に嫁ぐ訳だが、その後小麦畑との間に存在を儲けることとなる。

 

辛味澤 寿盃の父は辛味澤 少林寺拳法(からみざわ しょうりんじけんぽう)といい、彼は性豪である。彼は6存在との間で存在を儲けているが、正妻が一人、側室のような存在が一人である。

辛味澤 少林寺拳法の時代はまだ一夫多妻制が残っていた。

一般的には排他されていたが、少林寺拳法の住む地域ではまだごく自然なことであったのだ。

少林寺拳法の父、辛味澤 蛇呑(じゃのん)が生涯唯一の女性存在を愛していたことへの反動であると親戚一同は分析している。

 

少林寺拳法の正妻の名は辛味澤 武郡恒狐(からみざわ たけごおりつねこ)である。

少林寺拳法と武郡恒狐との間には長女の腓返(こむらがえり)、次女の堅耶麻里、三女の酒喰滝(さけぐいのたき)、長男の寿盃、四女の土煙巻狸(つちけむりまきだぬき)の計5存在が存在する。

 

寿盃が父のことを嫌いなのは、男として生まれたことを散々詰られて育ってきたことと、そんなことを言いながらも父が自分の身体を求めてきたことに由来する。

それほどまでに少林寺拳法の性欲は突き抜けていたのである。

 

しかし血は争えなかったようで、寿盃も多くの女性と多くの子を儲けることになったわけである。

 

少林寺拳法の二番目の妻の名は辛味澤 金輪際(とわ)である。

2人の間には長女の辛味澤 若紬(からみざわ わかつむぎ)、次女の辛味澤 天照巫女(からみざわ めぐみ)を儲けている。

金輪際は、夫の少林寺拳法から娘達を必死に守ったので、父の子を身篭るようなことにはならなかった。

しかし金輪際は若くして亡くなってしまう。それにショックを受けた少林寺拳法は、金輪際との娘には金輪際手を出さないと誓ったのである。それ以来、少林寺拳法は子を儲けるようなことは無かった。

 

また、正妻である武郡恒狐との間に儲けた娘達とは全員交わり子を授かった。これは金輪際が亡くなる前のことである。

腓返との間には長男の辛味澤 暴力(からみざわ ちから)と長女の辛味澤 鉄壁(まもり)を、堅耶麻里との間には長男の辛味澤 暁鷹(からみざわ ぎょうよう)を、酒喰滝との間には長男の辛味澤 興奮(からみざわ のぼる)を、土煙巻狸との間には長女の辛味澤 煙不立無炎処(からみざわ あたりまえ)と長男の辛味澤 狼煙(からみざわ のろし)をそれぞれ授かっている。

 

話が複雑化してきたようだ。

ここで本題に向かって筋道を少し明瞭化しておく。

 

辛味澤 甘党の祖父、辛味澤 寿盃の異母兄妹に天照巫女という女性存在がいる。

この天照巫女は多くの男性存在から身体を求められたが、姉の若紬が護り、代わりに子を孕まされて単身三児の母となる。

故に天照巫女は男という存在にかなりの嫌悪を示したが、ここで運命の出会いを果たす。

11年分も歳が上だったにも関わらず彼女は囲碁将棋 圧勝(いごしょうぎ あっしょう)と結婚することになる。

彼は天照巫女の心を救ったのである。

しかし、運命はまた数奇である。彼は辛味澤と無縁の存在ではなかった。

圧勝の弟は囲碁将棋 大勝利(いごしょうぎ だいしょうり)というが、辛味澤 鉄壁の配偶者である。

囲碁将棋 圧勝は、天照巫女と出会った際は義姉が辛味澤 鉄壁であるとは知らなかった。

しかしその名字に気付き調べてみると鉄壁と天照巫女が姉妹であると知ったのである。

圧勝は勿論そのことを天照巫女に告げたが、それでもいいと2存在は結ばれることとなる。

そしてこの2存在の間には2存在の子が存在する。

長男の囲碁将棋 一方(いごしょうぎ つよし)と次男の囲碁将棋 開戦(いごしょうぎ あたる)である。

囲碁将棋 一方は鎖帷子 美(くさりかたびら うつくし)を妻存在とし、囲碁将棋 銀桂香(いごしょうぎ せめか)を儲ける。

 

ちなみに鎖帷子 美は父に鎖帷子 不欠(くさりかたびら かけず)、母に鎖帷子 氷嚢(くさりかたびら まくら)をもつ。

そして美の兄の名は鎖帷子 十全(くさりかたびら じゅうぜん)である。

また、氷嚢の旧姓は大理石結界(だいりせきけっかい)である。父は金字塔山 金剛(きんじとうざん こんごう)、母は大理石結界 躑躅(だいりせきけっかい つつじ)である。

金字塔山家といえば堅耶麻里の嫁ぎ先であり、金字塔山 金剛の兄が金字塔山 堅耶麻里の夫、金字塔山 金閣銀閣(きんじとうざん きんかくぎんかく)なのである。

ちなみに金字塔山 金閣銀閣と堅耶麻里との間には一人の息子がおり、名を金字塔山 延暦(きんじとうざん むほん)という。

 

ここまでが家族構成であり大まかな人物相関である。

辛味澤 蛇呑以下の全配偶者と全子孫を紹介するのは今回は控えさせていただく。

あくまでおおまかにこれだけは説明しておかなければならないと判断したものだけ名を示している。

 

 

それではここからが本題である。

 

存在するのは辛味澤 甘党。

また、存在するのは囲碁将棋 銀桂香。

この2存在は再従兄妹同士である。

近隣の年代かつ近隣の交友関係には地獄河原 顔三度迄、 三千世界の姉妹が存在する。

他にも同世代の親族はいるが互いに顔を合わせたことは稀である。

 

彼らは一族が先時代的な世襲に則り乱れに亂れていることを疎んでいる。

確かに正月にはほかの存在と較べ多くの資金を調達することが出来うる。

ただし名前を覚えるリスクが伴う。

それだけではない。利点の周りを覆う欠点が既に点を越え円と化しているほどである。

 

 

甘党は従姉かつ叔母の三千世界に微かな思いを寄せている。

 

女王天童は兄の甘党に熱い恋の焔を滾らせている。

 

三千世界は従兄かつ伯父の小麦畑のことを自然に目で追ってしまう。

 

顔三度迄は妹の三千世界のこと以外は考えていない。

 

そして。

銀桂香は甘党と結婚したい。

 

 

様々な思いが交錯する。

彼等がこの一族の穿った歴史を疎んでいるのは、これらが関係しているのである。

 

彼等の属する国家では、現在の国法により4親等以上の結婚は認められている。

その場合、最短の道筋を通って計算されるため、甘党はどうあっても三千世界と結ばれることは無い。南無三。

故に法律の上では銀桂香は甘党と結婚することが出来る。

 

しかし、辛味澤家と囲碁将棋家は、甘党と銀桂香が遠戚であることを把握しているため、双方共に結婚には反対である。

銀桂香は12歳になったばかりであるため結婚できる年齢になったとはいえ、いやだからこそ心配なのである。

本気で言っていることはわかっている。

だからこそ味方も存在する。

銀桂香を応援するのは三千世界である。

彼女は作家であるその立場から様々な知見を甘党乃至銀桂香に与える。

しかし現実は甘くはなく、辛いのである。

 

甘党自身の立場もまたかなり辛い。妹と再従妹に迫られながらその上想い人はその想いに気付かず再従妹との仲を取り持つ。

また、銀桂香は甘党にとって従堂妹であるが、銀桂香からすれば甘党は従堂兄かつ義従表兄である。

 

辛味澤家という大木の周りに絡みついた苔や蔦のように囲碁将棋家やその他の親戚一族は翻弄され、現在のような運命を辿る。

 

 

甘党と銀桂香は国法上近親婚ではない。

ただし、それは国法だけによって定まるものでもない。

一族の意志がある。

昨年逝去した辛味澤 少林寺拳法であれば快く許諾したであろう。

しかしそれによってあるいは自らの若き日の行動によって今では大いに反省している辛味澤 寿盃は彼等の結婚には反対である。

 

こうした呪われた一族に生まれし辛味澤 甘党と囲碁将棋 銀桂香は結ばれるのであろうか。

 

甘党は果たしてどういう身の振り方をするのか。

 

それは神のみぞ知る─────────────────────────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───未来である。

 

───それは未来である。

 

───辛味澤 甘党は32歳である。即ち16年の後である。

 

 

彼はこの歳遂に結婚をするのである。

 

ただし一度目ではない。

 

離婚歴もない。

 

配偶者は───。

 

 

 

配偶者は、辛味澤 銀桂香、辛味澤 女王天童、辛味澤 三千世界、辛味澤 政、辛味澤 立候補(からみざわ りっこうほ)の5存在である。

子の数は先週30を超えたらしい。

 

彼は余りに甘かった。何もかもが、甘かった。

 

故に彼は辛味澤家という大木を、さらにさらに大きくさせる大首領の如き存在へと成長していくのであるない。

 

 

 

その実につけるのは、一体何なのであろう。